2018年02月12日

「歌集 滑走路」萩原慎一郎

昨(2017)年6月、32歳で亡くなった故萩原慎一郎氏の歌
集。295首。

俵万智さんが帯を書いた旨のツイで知り、今般、ようや
く入手し読んだ。

冒頭の、メモ帳と題する歌が目を引く。

いろいろと書いてあるのだ 看護師のあなたの腕はメモ帳なのだ

氏の死因はわからない。上が、死の間際の病院でのメモ
なのか。が、歌集には、同じような、病院の景色を描く
歌は見当たらない。この一首が、唐突に、冒頭にあるの
みだ。

ネット検索すると、この歌は、2016年に募集された角川
全国短歌大賞の準賞作と判明。死の前年の作である。少
なくとも、彼の死の間際の歌ではない。

氏は、東京生まれ。父親の仕事の関係で、京都や香港で
暮らした後に、東京都小平市に住む。中高時代にいじめ
を受ける。その頃、近くの書店にサイン会にきた俵万智
氏に触発され、歌作をはじめる。「つらい体験を乗り越
えるべく始めたのが短歌」だった、と。

これというものみつからず苦しみし十七歳は歌と出逢いき
 
 
以降、大学を卒業し就職活動をするも、本意ではない、
いわゆる非正規の仕事に就くこととなる。

ぼくも非正規きみも非正規秋がきて牛丼屋にて牛丼食べる
非正規という受け入れがたき現状を受け入れながら生きているのだ
毎日の雑務の果てに思うのは「もっと勉強すればよかった」


ざっと30年近く前にオレが勤めた会社では、非正規の方
は、とても余裕があった。当時、彼らは、ある分野での
プロフェッショナルで、正社員よりも年収は高いのに勤
務時間は短く、それでいて、仕事上の責任は比較的軽く、
余ったカネと時間と余裕とを、彼らの人生を謳歌するた
めに使っていた。オレからは、実に羨ましい存在だった。

が、その後、彼らを「失われた20年」の嵐が襲う。雇い
止めにつぐ雇い止め、それを機に、契約更新するごとに、
登録会社を変えるごとに、時給単価は大幅に削られ、交
通費等の経費も出なくなり、勤務条件は悪化の一途をた
どる。

さらに法改定によって非正規の枠が広がり、以前とは比
べ物にならないほど非正規の方々が増え、現在に至る。

かくして、非正規の方は、正社員よりも年収は圧倒的に
低く、勤務時間はままならず、責任は重くなり、生活す
るだけで汲々とすることとなる。氏は、まさにその真っ
只中にあった。

が、仕事に行かねば、その仕事さえも失うのだ。

今日も雑務で明日も雑務だろうけど朝になったら出かけてゆくよ
無意識のままに歩いて気がつけばいつものように会社の前に
頭を下げて頭を下げて牛丼を食べて頭を下げて暮れゆく


すこし条件が良くなったとしても、正社員とは、格段の
差があるのも事実。

非正規の友よ、負けるな ぼくはただ書類の整理ばかりしている
夜明けとはぼくにとっては残酷だ 朝になったら下っ端だから
シュレッダーのゴミ捨てにゆく シュレッダーのごみは誰かが捨てねばならず
コピー用紙補充しながらこのままで終わるわけにはいかぬ人生


氏は、残念ながら、恋愛にも恵まれなかったようだ。こ
の年代らしい、恋して叫ぶ歌が多いものの、恋の成就を
喜ぶ歌は見当たらない。

遠くからみてもあなたとわかるのはあなたがあなたしかいないから
ぼくは待つ勤務時間の終了をそしてあなたと逢える時間を
きみといる夏の時間は愛しくて仕事だということを忘れる
あの雲のベンチのように腰掛けてきみとふたりで語り合いたい


悩み事には尽きることがない。

癒えることなきその傷が癒えるまで癒えるその日を信じて生きよ
きみじゃないきみを探すよ あの街にさよならをしてどこかの街で
ただ好きと言えばいいわけじゃないのだ 大人の恋はむずかしいよね
生きているというより生き抜いている こころに雨の記憶を抱いて


エネルギーを、ひたすら歌作に向ける。

かっこよくなりたい きみに愛されるようになりたい だから歌詠む
抑圧されたままでいるなよ ぼくたちは三十一文字で鳥になるのだ


モテたいというのもあったろうが、何より、社会に自己
を認めてほしい自己主張だ。今歌集での、「~~のだ」
と結ぶ断定調の多さは、驚くほどに。

日記ではないのだ 日記ではないのだ こころの叫びそのものなのだ
だだだだだ、階段を駆け上がるのだ だだだだ、だだだ 駆け上がるのだ
日曜日 歩く 歩くよ 歩くのだ たったひとりで街をゆくのだ


が、その主張は、なかなか、氏の思うようには届かない。
「太陽」は、氏の理想の形で、いつも輝くのみであった。

破滅するその前にさえ美はあるぞ 例えば太陽が沈むその前
ぼくにとってのあなたのごとく黄金に光る太陽夕空にあり
朝が来た こんなぼくにもやってきた 太陽を眼に焼きつけながら
いつか手が触れると信じつつ いつも眼が捉えたる光源のあり


合掌...。

「大人の千羽鶴」に参加中。つがいの鶴を被災地宛てに飛ばそう!



posted by 由良理人 at 08:41| 千葉 ☀| Comment(1) | マンガ・書籍・音楽・映画、TV番組など | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今日(2/19)午後から、この記事へのアクセス
が集中している。

どうやら、朝日新聞の電子版に、萩原氏につ
いての記事が載ったらしい。

記事を確認する。氏の死因が載っている。や
はり。

旅行先の諫早市から合掌、再び...。

Posted by 由良理人 at 2018年02月19日 20:35
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